準備が完全に整い、僕の気持ちやタイミングなどお構いなしに、「では こちらへ」と椅子から下ろされ、処刑台へ連れて行かれた。
僕にはもう、一刻の猶予も無かった。
足かせで両足をガッチリ固定されてたので、チョコチョコと少しずつしか歩けなかった。
何度言ったか分からないが、本当にそれは、自ら志願する処刑でしかなかった。
いよいよ踏切板に立ち、ここでようやく地面が見え、本当にヤバいと後悔した。
ここでもまた記念撮影
まだこの時は、スタッフに声を掛けられたり、体を支えて貰ってるので、幾分気持ちはリラックスしている。
正面を見てしまうと、恐ろしい現実に引き戻されるので、そのわずかな時間でさえ愛おしくなり、必死に楽しむ。
問題は このあと。
一通り終わったら、「 OK? 」と、一人だけ前に突き出される。
この瞬間!
当たり前の話だけど、飛ぶのは自分だけなのだと、絶望感に襲われる。
僕は、乃木どこのマカオの回を見るたんびに、「すげ~」とか言って、割とゲラゲラ笑いながら観ていた。
笑っていた自分には、当然西野七瀬の気持ちなど、理解出来ていなかったし、彼女があの時泣いた理由は、ただ単に怖いからだけだと思っていた。
改めてビデオを見返してみると、彼女は踏切板でずっと泣いていたが、その後 明らかに取り乱したシーンが映し出されていた。
それは、恐怖や絶望感ではなく、
孤 独
僕もそうだった。
さっきまで楽しい雰囲気で、スタッフ達とわいわいやっていたのに、突然 自分独りにされてしまった孤独感。
現に彼女は、「飛びたい気持ちはある」とポジティブな発言もしている。
泣いたのは、怖いから。
大泣きしたのは、独りぼっちにされたから。
僕はこの回を再生して、初めて涙が溢れた。
なぜそこまで言い切れるのか?と質問されたら、「同じ場所に居たから」としか答えようがない。
西野七瀬は、そんな気持ちでこの場所に立っていたのかと知ったのは、日本に帰って来たあとだった。
本番では、そんな事を考える余裕など一切無かった。
自分の事で、精一杯。
無慈悲で残酷なカウントダウンが、始まろうとしていた。
つづく